2016年11月10日木曜日

後見制度支援信託とは④

後見制度支援信託について、最終話です。
 これまで制度の概要や要件について見てきましたので、利用にあたってのメリット・デメリットについて考えてみたいと思います。

■メリット
本人の財産を安全に、確実に保護することができる
・元本が保証され、預金保険制度の保護の対象
・信託した財産の払い戻しや信託解約などをする場合、家庭裁判所の指示書(事前チェック)が必要

後見人の財産管理の負担を軽減
・金銭の管理について、透明性が確保できる
・金銭の管理方法を巡る親族間トラブルを回避
・信託した金銭については、信託銀行等の明細を利用できるので、裁判所に提出する事務報告書の作成が容易になる

■デメリット
報酬コストの発生による経済的負担
①信託契約の締結に関与した専門職後見人に対する報酬
→家庭裁判所が、専門職後見人が行った内容や本人の資産状況によって決定します。
②信託銀行に対する報酬(管理報酬・運用報酬)
→管理報酬としては、信託銀行によって異なりますが、無料~約16万(契約中は月額負担無料~約3000円)。運用報酬は収益に応じて発生。

臨時・突発的な財産の使用に時間と手間を要する場合も
事前に裁家庭判所の指示書が必要なため、申立から指示書交付まで、手間と手続時間を要します。
裁判所の迅速な対応にも大いに期待したいのですが、そもそも前回のブログで述べた「裁判所が審判するうえでの判断材料」の“5.本人の居所が安定し、毎月の収支計画を立てられている状況である”にあるように、臨時・突発的な財産の使用の必要性が最小限であることがこの制度の利用において予定されていることが窺えます。


最後に、今後のこの制度の展望についても考察してみます。
そもそも、この制度の背景として後見人等による着服や横領など不正事例が後を絶たたないことが一因となっています。その後見人を監督する制度は、どちらかといえば事後的な監督にならざるを得ませんので、後見監督制度の改善・強化も図りつつ、家庭裁判所としてはこの制度の利用促進を推し進めていくことで、成年後見制度自体の信用を担保していく意向が感じ取れます。

結果、「親族後見人+一定の金銭財産がある+(その他判断材料による)」のケースで今後成年後見制度を利用する場合、「①後見制度支援信託を利用 ②後見監督人が選任される」ゆくゆくはこの2択の選択(というよりも、“①でなければ②”“①と②の併用”)となっていくのではないのでしょうか。

この制度は、本人にとってメリットが多いのですが、事情によっては、運用手続面においてのデメリットの方が際立つ場合もあります。また、個別背景(財産の多寡、ご容態や居所の状況、選任された後見人等)によって利用の判断軸は大きく変動しますので、利用にあたっては家庭裁判所や専門職に充分にご相談されることを推奨いたします。




2016年11月2日水曜日

後見制度支援信託とは③

引き続き、後見制度支援信託について。

これまで述べてきたことと重複にもなりますが、成年後見制度を利用されている方で、どのような方がこの制度の利用に適しているのか、また、裁判所が審判するうえでの判断材料や要件を、簡単に挙げてみると次のようになります。

------------------------------------------------
1.成年後見人または未成年後見人を利用している
保佐人、補助人を利用されている方は、この制度は利用できません。

2.親族の方が後見人である
専門職後見人である場合、今のところこの制度の利用外となっています。

3.本人に一定額の金銭がある
目安としては、1000万円以上でしたが、500万円以上に緩和されている地域もあります。
不動産や動産は対象外となっています。

4.本人が遺言などで財産の使いみちを決めていない
本人が遺言などで財産の処分方法を決めている場合、“財産を信託する”ことは、本人の意思に反してしまわないか検討する必要があります。成年後見の制度は、本人のための制度ですので、本人の意思の尊重を最優先しようという趣旨が考えられます。

5.本人の居所が安定し、毎月の収支計画を立てられている状況である
入院中の場合などは、どこが本人の住まいになるかまだ不確かですし、介護施設への入居などの予定がある場合は大きな財産を動かす必要があるので、信託しない方がよい場合もあります。
また、日常的に使用する金銭は定期交付になりますので、毎月の収支の目途が立っていることも判断材料の一つになります。

6.その他、本人・後見人の個別的事情
本人の財産管理や身上監護に、親族間で意見の相違がある場合は十分に配慮が必要です。

--------------------------------------------------------

今のところ、上記がこの制度を利用するにあたっての判断材料と考えられますが、新しい制度な故、今後、変更されていく可能性は大きいと思います。


最高裁判所の「成年後見関係事件の概況」(平成25年1月~12月)によると、平成25年の1年間でこの制度を利用された方は533人(信託した金銭の平均額は約3700万円)とあります。成年後見審判の申立件数約26000件のうち、親族後見人はおよそ42%とあるので、数値的にはまだ周知されていない状況でした。
とはいえ、平成25年12月時点では新規に後見申立をする際に限定された制度でしたが、それが緩和され、現在後見制度を利用されている方も利用できるようになったことで、今後は、利用に向けた動きがもっと加速していくと思います。

次回は、メリット・デメリットについて、そして、今後のこの制度の展望について考えたいと思います。







2016年10月26日水曜日

後見制度支援信託とは②

最近、ご相談を受けた“後見制度支援信託”。
平成24年にスタートした制度で、後見制度による支援を受けている本人の財産のうち、「通常使用しない金銭(日常的に必要十分な支払以外の金銭)」を信託銀行に信託する仕組みです。

この制度の目的は、「本人の財産を安全にかつ確実に保護する」「後見人の方の財産管理の負担を軽減する」ことにあります。
本人の現金や預貯金などを信託を活用して管理することができ、この信託した財産は元本が保証され、預金保険制度の保護の対象となります。
また、信託した財産の払い戻しや信託解約などをする場合、家庭裁判所の指示書が必要ですので、第三者による引き出しなどによって財産が損なわれることはありません。

この制度の背景として、後見人等による着服や横領など不正事例が後を絶たたないことが一因となっています。
平成23年2月から平成24年2月までの2年間で、不正事件は935件。被害総額は80億円を超える額にのぼることが、最高裁判所の調査により判明しています。
後見人を監督する制度はありますが、どちらかといえば事後的な監督にならざるを得ないので、不正を防ぐ仕組みとして確実に機能しているとは言い難い状況であり(とはいえ、この後見監督制度の改善・強化も急務であることに間違いないですが)、そのため、事前に本人の財産を信託することで、「信託銀行による財産の管理・保護」と「裁判所による指示書」により、不正が起き得ない仕組みを構築する機能としてこの制度はスタートしました。

当初は、新規に後見申立をする際に限定された制度でしたが、それが緩和され、現在後見制度を利用されている方も利用できるようになったため、家庭裁判所から利用を促す通知が後見人の方へ届いているようです。

高齢化がますます進む中、今後、この制度を利用する方、利用を検討する方が増えていくと思いますので、次回は、もう少し具体的にこの制度の仕組み、手続きについて考えてみたいと思います。




2016年10月22日土曜日

後見制度支援信託とは①

最近、ご相談を受けた“後見制度支援信託”。
平成24年にスタートした制度で、後見制度による支援を受けている本人の財産のうち、「通常使用しない金銭(日常的に必要十分な支払以外の金銭)」を信託銀行に信託する仕組みです。

この制度の目的は、「本人の財産を安全にかつ確実に保護する」「後見人の方の財産管理の負担を軽減する」ことにあります。
本人の現金や預貯金などを信託を活用して管理することができ、この信託した財産は元本が保証され、預金保険制度の保護の対象となります。
また、信託した財産の払い戻しや信託解約などをする場合、家庭裁判所の指示書が必要ですので、第三者による引き出しなどによって財産が損なわれることはありません。

この制度の背景として、後見人等による着服や横領など不正事例が後を絶たたないことが一因となっています。
平成23年2月から平成24年2月までの2年間で、不正事件は935件。被害総額は80億円を超える額にのぼることが、最高裁判所の調査により判明しています。
後見人を監督する制度はありますが、どちらかといえば事後的な監督にならざるを得ないので、不正を防ぐ仕組みとして確実に機能しているとは言い難い状況であり(とはいえ、この後見監督制度の改善・強化も急務であることに間違いないですが)、そのため、事前に本人の財産を信託することで、「信託銀行による財産の管理・保護」と「裁判所による指示書」により、不正が起き得ない仕組みを構築する機能としてこの制度はスタートしました。

当初は、新規に後見申立をする際に限定された制度でしたが、それが緩和され、現在後見制度を利用されている方も利用できるようになったため、家庭裁判所から利用を促す通知が後見人の方へ届いているようです。

高齢化がますます進む中、今後、この制度を利用する方、利用を検討する方が増えていくと思いますので、次回は、もう少し具体的にこの制度の仕組み、手続きについて考えてみたいと思います。




2016年10月18日火曜日

森林の土地の所有者届出について

H24年に改正施行された森林法。
森林の土地の所有権を取得した者は、市長村に事後届出が必要になっています。

・司法書士として、土地の名義変更登記
・行政書士として、行政庁への届出
いずれも業務に深く関わり、この度検討する機会があったので、備忘録的に要件をまとめてみます。

■概要
地域森林計画区域内民有林につき、新たに森林の土地所有者となった者は、市町村の長に対して届け出なければならない。

■地域森林計画区域とは?
都道府県/市町村の林務担当部署で確認する必要あり

■民有林とは?
国有林以外の森林

■森林の土地とは?
「木竹が集団して生育している土地」「木竹の集団的な生育に供される土地」
 →“現況”が森林の土地であれば届出対象(登記簿上の地目が山林以外でも対象となり得る)

■ 所有者となった者とは?(=届出対象者)
森林の土地を新たに取得した方
→土地の面積に関わらず
→個人/法人問わず
→取得原因問わず(売買、相続、贈与、合併等)

■届出先は?
森林の土地が所在する市町村

■いつまでに届出が必要?
所有権を取得した日から90日以内に
→相続の場合、相続発生日が起算点(分割協議日ではない)

■届出が不要な場合
国土利用計画法に基づく土地売買契約の届出を提出している方は対象外



以上、届出をしないor虚偽の届出の場合、10万円以下の過料が科せられることもあるので、専門職としては要注意ですね。




2016年10月10日月曜日

売掛金回収のあれこれ⑤

随分期間が空いてしまいましたが、シリーズ最終回です。

これまで、①回収したい売掛金を整理し、②相手との接触状況を確認のうえ、③取り得る手段の選択肢を見てきましたが、最後に、未収を回避するための事前予防策を提案させていただきます!

■初めての取引の際は、事前に相手の調査を
・インターネットで検索
・会社登記簿謄本(費用は要しますが最寄りの法務局で誰でも取得できます!)

■契約内容証拠の積み重ねを
・契約書、請負書、納品書などは保管
・文書が難しい場合は、メールやファックスも◎。(口頭で約束を交わしたとしても、後日リマインドを兼ねて)

■着手金や中間金の検討を
・大きい受注や与信に不安があるとき等は、全額取りっぱぐれを防ぎましょう 

■万が一に備え、普段の会話の中で、財産の有無についてさりげなく確認を
・住まいは持家?賃貸?
・よく利用する銀行は?


売掛金の回収についていろいろ書いてきましたが、今回の事前予防策が一番お伝えしたかったことです。
普段のちょっとした心がけでできることばかりなので、ぜひご参考になれば幸いです! 







2016年10月1日土曜日

売掛金回収のあれこれ④

引き続き、取り得る手段について。

■和解 (⇒ 無い袖は振れない・・・)
相手方の事情を考慮し、分割払いなど、積極的妥協を試みることも、回収への一歩です。

■見切る(⇒ 今後に向けての“事前予防策”を!)
回収不能が明らかな場合、深追いしても時間や労力の無駄になるため、一旦、見切る方が賢明なこともあります。
ただ、時間をおいて、請求し続けることをお薦めします。


以上、回収手段について見てきましたが、 どの方法も確実に回収できるとは限りませんし、時間や労力を要し、また、精神的にも疲れてしまいますよね。
そうならないために、次回は“未収を回避するための事前予防策”を検討していきます!